西洋なし|収穫時期:8月〜1月
全国のシェア6割を誇る
山形県産「西洋なし」
西洋なし王国やまがたの
女王「ラ・フランス」
色や形がふぞろいで、決して見栄えが良いとは言えない「ラ・フランス」。ところが、食べてみると驚くほど上品でとろけるようなおいしさ!今や各地で盛んに作られる西洋なしだが、このブームの火付け役になったのが、山形県のラ・フランスだ。ただ、脚光を浴びるまでには、長い歳月を要したという。そのシンデレラストーリーをさぐってみよう。
そもそも西洋なしは16世紀頃からドイツ、イギリスで栽培されはじめ、18世紀のイギリスで代表的品種「バートレット」が発見される。これが明治初期、日本に伝わった。山形県では、古くからのなし産地である東置賜郡屋代村(現在の高畠町)で、1875年に栽培を始めたとされる。
しかし当初は、実ったはずの果実を食べても、石のように硬くてまずい。「食べられないので捨てておいたら、時間が経って黄ばんで香りがしてきた。拾って食べるとおいしく、収穫後に熟させることに初めて気づいた」という笑えない記録がある。
また、屋代村の古文書には、「明治42年、皇太子(後の大正天皇)行啓の折に和梨を献上したところ大いに喜ばれ、金一封とバートレットの苗を賜わった。これが本県の西洋なしの歴史のはじまり」という内容もある。あれこれ推察すると、明治初期に西洋なしは栽培されていたが、皇太子行啓をきっかけに、山形での西洋なしづくりが一気に広まったと考えられそうだ。
その後バートレットは、缶詰加工用として盛んに作らたが、このバートレット畑に細々と植えられていたのが、当時は受粉樹の身だったラ・フランスだ。ふつう果樹は、単一品種だけでは受粉しづらいため、違う品種を受粉樹として畑に入れ、実を結ぶ確率を高めるという栽培手法をとる。
ラ・フランスは1864年、フランスのクロード・ブランシュ氏が発見。そのおいしさに「わが国を代表するにふさわしい果物!」と賛美し、ラ・フランスの名前がついたという。日本には1903年、山形県には大正初期に入ったものの、見た目の悪さや栽培の手間から、受粉樹に利用されるだけだった。
しかし1970年頃から缶詰より生のフルーツの需要が高まり、生食のラ・フランスに注目が集まる。別名「バター・ペア」と呼ばれ、特有の芳香と、果汁がしたたるなめらかな肉質。当初は高価で少量が出回るだけだったが、グルメブームの到来で、一般にも広まった。
ラ・フランスは、開花は早いのに収穫が遅く、生育期間が長いために手間がかかる。山形県では土づくりから剪定、摘蕾・摘果、収穫、追熟など官民一体となり研究努力を進め、1985年頃までに生産体制を確立させた。
「ラ・フランス」は当初、生産の主役であった「バートレット」の結実を助ける受粉樹として導入された。見かけの悪さもあって裏方に甘んじていたが、大変に美味であることは栽培者の間で知られていた。
出番待ちの、丁寧に袋掛けされたラ・フランス。
いいとこずくめの新品種
「メロウリッチ」
山形県は西洋なし王国として、さらなる品種の改良や開発を推進してきた。そして今一番に注目されるのが、県オリジナルの新品種「メロウリッチ」だ。ラ・フランスより開花が1〜2日遅く、収穫は9月下旬頃の中生種。糖度が約16〜17度と非常に高い上、肉質はち密かつなめらかで、香りも芳しく、口に入れると十分な果汁とともに濃厚なおいしさが広がる。まさにメロウでリッチな食味だ。
もうひとつ、メロウリッチの姉さん格として人気なのが、山形県オリジナル品種の「バラード」だ。ラ・フランスとバートレットをかけ合わせたもので、特長は一個450g前後と大玉な上に、糖度が15〜17度と高く食味に優れる。また、ラ・フランスを親にして生まれた「シルバーベル」は、10月下旬頃に収穫でき、日持ちが良いため、クリスマス時期に食べるのには、ピッタリな品種である。県内では他に、少量ながら多彩な品種が栽培され、旬の時期、産地直売所を見て回るのも一興だ。
「シルバーベル」はかなりの大玉種で、味も濃厚。X'mas時期が食べ頃になる。
とろける甘さを作る「追熟」
見極めたい「食べ頃」
さて、収穫してから熟させる「追熟」のメカニズムはこうだ。もぎたての西洋なしは2%ほどのデンプンと、クエン酸などの酸を多く含む。これを時間をかけて追熟していくと、デンプンが果糖やショ糖、ブドウ糖などの糖分に分解され、ビタミンBやCも増加する。また果肉中のペクチンが水溶性のペクチンに変わるため、肉質はとろけるようになめらかな状態になるのだ。追熟の期間は、ラ・フランスなどでは常温で2〜3週間。
食べ頃は、果皮の色で分からない場合は、軸の周囲に盛り上がっている「肩」と呼ばれる部分を指で押し、耳たぶぐらいの柔らかさだったらOK。ただし、店先の商品を指で押すのはマナー違反、店員に確認しよう。
産地では、西洋なしの食べ頃を分かりやすくするため、出荷ケースごとに「予冷」をかけるのが一般的だ。収穫直後に2〜5度の低温貯蔵庫に入れ、10日間ほど呼吸作用を抑制する。これを常温に戻せば一斉に呼吸を始め、デンプンが糖分に変わる。約2週間後が食べ頃となる訳だ。
西洋なし生産量で全国トップを独走する山形県。山形発の西洋なし文化が、日本中を魅了しようとしている。
ラ・フランスよりも出荷が早い大玉の有望品種「バラード」
* DATA *
主な産地
天童市・東根市・上山市・高畠町・大江町・山形市・南陽市・寒河江市・中山町・朝日町・ほか